しとしと落ちる

創作、雑多、日記

自宅にて

 新型コロナウイルス感染により、がらりと変わってしまった日常は、いつかきっと戻ってくるはず。心の中でそう願いつつも、毎日のように増えていく感染者数や、ニュースで報じられる経済面での影響など、情報がたくさん目に入って心が悲鳴を上げそうになる。時々、テレビやスマホを置いて、どこにも行かずに家に閉じこもり、映画や小説に没頭している。自分だけの世界を持つことで、平穏を保とうとしている。現実から逃げているわけではなくて、無謀に立ち向かって勝てる相手ではないから。

 平日の仕事のあとも、休日も、どこにも行かずに必要最低限の用事のときだけ外に出る。ずっと雨だったらよかった。4月の晴れの日は、日差しも暖かくて、外に出かけたい気持ちになるから。喫煙者が感染すると重症化しやすいという報道があって、心の底から憎くなる。また「情報」が私を殺しに来る。色を盗みに来る。

 いくら映画を観たって、本を読んだって、膨大にある時間をうまく使うことができない。どうしても集中力は途切れるし、空いた時間を弄ぶこともなくぼうっとする時間が増える。動画で「平成〇年生まれ アニソン」を調べ、懐かしい曲(なぜか完璧に歌うことができる)を熱唱する。私は「不思議の海のナディア」や「明日のナージャ」「東京ミュウミュウ」が好きだった。弾ける幼少期の記憶。メドレーが終わるたびに部屋のなかは静まり返って、ここが「いま」なのだと実感する。

 雨が降っているから、気温がぐっと下がって春をまったく感じない。洗濯物もさっき干して、米も炊いた。旦那は起きてこないので、一人で「ココ・アヴァン・シャネル」という映画を観る。当時のドレスを着てみたい。細かいレースと、ラインの出た形、ふくらみのある袖にココ曰く「カーニヴァルの衣装のような」派手な装飾。それもいいけれど、しっかりとしたカジュアルなドレスも格好いい。ハットをかぶって、何かに怯えたような追い詰めたような表情で煙草を咥えている。ココ・シャネル役の主演オドレイ・トトュは「アメリ」にも主演として出ている。彼女の大きくて黒い瞳と、形の整った凛々しい眉が好きだ。女らしさを求められる時代に、カジュアルやシンプルを取り入れた。ファッションの時代を大きく動かした女性の伝記映画なので、興味のある方はぜひ観ていただきたい。フランス映画なので、吹替ではなく字幕で見てほしい。舌をコロコロと転がす流れるような美しいフランス語が聴けるから。

 


ココ・アヴァン・シャネル