しとしと落ちる

創作、雑多、日記

  夜。凛として時雨を流しながら、ベランダで吸う煙草は、別にいつも通りの味なんだけれど特別な時間のように感じて。伏せた視線の先に蝿の死骸を見ては、部屋のぬくもりと対照的に映るその死を偲んだ。禿げたネイルと少しめくれた唇の皮を弄びながら、網戸をしめる。隣の部屋で話し声が聞こえて、彼が誰かと通話をしていることに気づいた。音楽を止めて、静かになった寝室にひとり、ただ夜が濃くなるのを待つ。目を閉じて、10年以上前に友だちから借りて読んだ「キノの旅」を思い出す。深い意味はなくて、なんだっけ、あの話。という具合で。

  多感な年頃に不思議な創作物に触れると、妙な錯覚を起こしていた。まるで自分がその世界の主人公であるかのような、そんな錯覚を。でもよくよく考えてみれば、私の時間の主役はまぎれもない私自身なわけで、それをどう生き抜こうがあるいはリタイアしようが自由な気もするけれど。生き様が老いたときに表れてもそこに自信を持てるように、責任は背負いたい。

 

  落ちた灰が風で散ってしまうのを、ぼんやり眺めた。あれから何日がたった?ユーチューバーに影響されて、ストゼロを飲んだけれど、元々お酒の飲めない私は数口で首元が熱くなり、断念した。ジャンクフードも、こってり味のラーメンも、肉汁が溢れるステーキも、私は食べられない。完食ができない。恋人に食べてもらっている。私は食事でさえ彼がいなければ不完全なままなのに。どうして彼がいないベッドで眠ることができるだろう。今までどうやって彼なしで生きてきたのか、究極を問えばそうなってしまう。自立したい気持ちとまだ赤ちゃんだいたい気持ちがあって、甘ったれの自分を隠すようにまた煙草に火をつける。安っぽいな、私。とても安っぽい。