しとしと落ちる

創作、雑多、日記

祖父母を待っているからブログを書く

  年末を迎えて街は賑やかだ。クリスマスとはまた違った類の賑やかさ。ショッピングモールでは多くの人が忙しなく、商品を手に取ってはまた戻し、手に取ってはまた戻し……。華やかな、そして各家庭それぞれの正月を迎えるために、買い物をしている。普段通りに年末を過ごす人も、仲間と大騒ぎをする人も、家族や恋人と楽しく過ごす人も、どうか暖かく満たされた年末であってほしい。

 

  そんな私は今、祖父母の買い物にほぼ強制的についていき、「お惣菜の半額シールが貼られるまでが勝負なの!」とほくそ笑んだ祖母と、本屋で雑誌を眺めている祖父を待っている。店内のベンチに座って、スーパーの電子音めいた曲を延々と聴きながら。時々、祖父がちらっと私の方を向いて、また雑誌へ向き直る。その姿勢はピシッとしていて、何一つ曲がっていない。

 

  祖母は今頃、半額シールが貼られるのを今か今かと待ちわびながら、店内をぐるぐる廻っているのだろう。その背はあまりにも小さくて、被っているニット帽がぶかぶかで小人みたいだ。私は祖母を見つけるのが得意。似たような人を見かけても、絶対に間違わないし、どこにいても「たぶんここにいる」とすぐわかってしまう。だから、街でぐうぜん祖母に会うことが多々ある。

 

  そのとき、初期の認知症の彼女は、一瞬会った孫が誰なのかわからず首をすくめて、少しした後必ず自分の娘の名前を口にする。慌てて、私の名前に言い換えて、恥ずかしそうに笑うのだ。

 

  玄関を開けて鍵穴に鍵を挿しっぱなしにすることが増えた。メガネを置いた場所がわからなくなった。ほんの少しまで考えていたことが思い出せない。そんな小さいことのひとつひとつが積み重なって、なんだか本人もいじらしそうで、見ていて切なくなる。

 

  老いるということは、赤ちゃんに戻ることだ。

 

  世の中のことを少しずつ忘れていって、まっさらの状態に戻る。歩けなくなって、自力で食べられなくなって、言葉も発しなくなり、小さくなる。

  優しい彼女が優しいままの赤ちゃんになりますように。

 

  …半額セールになったので、私も行こう。