過去は過去のこと

「難しいことを、よく考えているね」と、恋人によく言われる。

 

 私の言うことをきいて、「理解ができない」とも。

 それはそうだ。私は私で、私の考えていることは、私にしか理解できないのだから。彼は「なんとかなる」という考えなのだろうけど、残念なことに、「なんとかなる」という心情で一日を乗り切られるほど、私の置かれていた現状は私にとって息のしやすいものではなかった。

 だから、そういう考えができない。

 同じ状況にたってみればいい。

 わけのわからないことを言い出す母親。その最初の標的にされた、まだ幼かった私。激しい口論を繰り返す両親を、じっと眺めて、息を潜めていた。ひどく怖い夜もあった。優しい母を、求めて泣いた。母は、どこか遠くにいて、戻ることはなかった。

 こう書くと、やすい小説の1シーンのようだ。笑える。

 

 今が楽しければいい、と言う。

 もちろんそれはそうだ。今が幸せで、満たされている。

 だけど、どこかで思う。

 私には、あの暗がりがお似合いなのではないか、と。

 危なっかしくてどこに転ぶかわからない、ほんの少しの優しさで涙を流すような寂しい夜を、もう一度過ごせるなら。その闇に懐かしさと、闇に浸る自分自身に愛しさを感じられるほど、もうあれは過去になっているのだなと実感できる。