こんなことで

 強い見捨てられ不安が、常に胸にのしかかっているので、毎回、息をすることが難しいほど苦しいことがある。言葉で言い表せない何かが、ぐぐぐっと胸にせりあがってきて、吐き出したいのにそれができなくて、代わりに涙になって溢れてくる。手の震えがひどくなって、汗が出てきて、頭がぼうっとしてくる。カミソリを握りしめて、冷たい刃をトン、トン、トン、とあてる。切ってはいけないと恋人と約束した。彼の顔を思い出して思いとどまろうとするけれど、どうしても苦しさが勝ってしまう。しょうがないので、親指の下の、厚い肉に噛みついた。ぎゅうううっと力を込めて、がっちりと歯型がいくまで噛む。じっくりと、時々、衝動的に。頑張らないと、苦しさが暴力性に代わって物に八つ当たりしてしまいそうになるから。

 こうなったきっかけは、普通の人からしてみれば「そんなことで」と思われるような些細なこと。楽しそうな甥っ子との食事の写真を、恋人がラインで送ってきた。ただそれだけ。それだけで、私は苦しくなる。苦しくなって、それで自分を見失う。こんなことで簡単に。