ミルク

  ミルクを温めて、くつくつ煮込んだら、一杯のインスタントコーヒーをコップに入れてそこに注ぐ。ハチミツを入れて、くるくるスプーンでかき混ぜる。この、スプーンとコップのかちゃかちゃという音が、甘く聴こえる。板チョコを少しずつ食べながら、ミルクを飲むとじんわりチョコの甘さが口の中に広がって、私まで溶けていくように思う。薄い牛乳の膜を、舌で丁寧に、破れないように取る。

 

  いつが一番辛い時期だった?と聞かれるとサラサラと答えは出てくるのに、いつが一番幸せでしたか?と聞かれると困ってしまう。辛い時期にランキングはつけやすいけど、幸せにはつけにくいのだと思う。それぐらい満たされていて、当たり前にそこにあって、安らかで、誰もが感じることのできる幸せ。

  私が怖いと感じているもののひとつてある。幸せはいつかはなくなるものだけど、絶望が長続きしないことを私は知っている。それなのに、自分が足を滑らせたときに、きっと立っていられるだけの力がないことも経験してしまったから、自信がないのだ。幸せをたっぷり感じることができない。心の底から幸せだなと思ったことなんて、もしかしたらずっと遠くに置いてきぼりにしたままかもしれない。

  恋人は私といるととても幸せらしい。それを聞くたびに嬉しさよりも、その幸せに同意できにくい自分の心の貧しさが目立って嫌になる。私はあなたといる時間、いつあなたが居なくなるのか、それらから耐えるためにずっと心を固くしているのよ、と。

  だけど、きっと恋人は私の不安を吐き出せば、優しく包み込んでくれるし、思い切り甘やかしてくれるだろう。そして優しい声でギブスを歌ってくれるのだ。「明日のことはわからない」「昨日のことは忘れちゃおう」恋人の口ずさむ歌たちが好き。私の全部を受け止めてくれる優しい彼が、どうか、私といて不幸になりませんように。