冬と恋

 

  外の空気が冷たくて息がしづらい。鼻の頭が痛くなって、呼吸をするたびにツキンッとした鋭い刺激が走る。追い風が吹いて自転車は一向に前に進まない。もう前なんて見ずに後ろを見ていたい。それではダメなのか。

  冬を誰かと過ごしたことは、実は今までに一度もない。恋人たちは冬を目の前にして居なくなったし、この時期に友達は忙しなく働いているし、そういう特別な日に特別な誰かといることは無縁だと思っていた。面倒臭いと突っぱねていたところもあったので、私は本当に天邪鬼だと思う。

 

  私の無自覚で無責任な行動で周りがあたふたしていることに、私自身が一番気づいていないことが多い。それを周囲に指摘されるたびに、どうして私が責められるんだと初めはひどく辛かったけど、もう慣れてしまった。冬だから最低なことを言うけど、私は本当に、いい加減やで気分でコロコロッと意見が変わる困ったさんなのだ。だから、そんな私に近づいて来る方がどうかしているし、私に変化を求めるなんてもっとおかしい話だ。

  いつも言っている。私は周囲からお墨付きの「困った人」だから、会わない方がいい、関わらない方がいい、誘いに乗らない方がいい。

  私自身も自分のどこに落ち度があるのかさっぱりわからないので、正直お手上げである。私らしくいるだけなのに。

 

  今の恋人にもはっきりと言われた。「ふつう、初めて会う男を家にあげないよ」と。私はそれが不思議でしかない。もちろん、「初めて会う男を家に招く」ことは一人暮らしの女性にとってかなりリスキーなことだろう。自分と相手しかいない空間で何が起こるかなんて、ほんなの、起こってからでないとわからないことだ。「ふつう」は(この「ふつう」も私は本当に苦手な言葉なのだが)、初めての男は家に呼ばない。それは私にもわかっている。

  だけど、私だって誰でもかんでも呼んでいるわけじゃないし、「この人は体が目的なんだ」と察したら相手の車にすら乗らない。だいたい会う前のやりとりでわかるけれど。

  要は気になった人を家に呼んでいるわけだけど、ちゃんと相手に答えを託しているのだ。「私は家に帰る。きみは、どうするの?きみの家に帰ってもいいし、私の家に来てもいい。お茶ぐらいなら出せるけど。きみが決めて」

  だいたいは家の中に来ることを選ぶ。私と少し距離を保って座り、特に何もなく、話だけをする。そのときに言われたの。「ふつう、初めて会う男を家に呼ばないよ」と。コーヒーを飲みながら私は苦笑する男に「家に来ることを決めたのはきみでしょう」と話す。私は別に、あのままサヨナラしても良かったのに、と。「きみが帰りたいときに帰ればいいし、もう少しここにいたいならいればいい」と言う私に男は困ったように頭をかいた。

  「でも、俺は男なわけですよ」そんなことを言うので「じゃあ手を出せばいいじゃない?私だって誰でも家にあげているわけじゃないんだから。ただ、私、恋人ではない人とセックスすると吐いちゃうの。だから、セックスしてもいいけど、もうきみとは会えないね」と話した。

  私たちは初めて会ったけど、なんとなく直感でお互いのことが気に入ってしまったのだ。男は私に触れてはきたけど、絶対に最後までしなかった。私の背中をぎゅーっと抱いて、しばらく息を整えて「俺、我慢できないから帰るね」と言った。

 

  一人残された部屋で、私は煙草を吸った。

  あんなに誘ったのに最後までしなかった。「だって、よかせと会えなくなるの嫌だし。よかせの嫌がることはしたくない」そう言ってキスすらしてこなかった彼は、どんな気持ちで私の家に来たんだろう。彼の帰った後の煙草の匂いが好きで、好きで、「あれ。これ、恋なんじゃない?」と気づくまでまだまだ時間がかかりそうな気がする。

 

  これはあくまでうまく事が進んだ結果なのだ。本来ならどこかでこけて、ものすごく痛い目を見るはずだ。「心配してるのよ」とよく言われるけど、本当に心配されるだけでは手遅れなのかもしれない。左手の傷がまた少し増えた。