うさぎの目

 

 セックスの後の静かな時間が好きだ。体は疲れていて、息も少し浅いのに、隣の体温の心地よさとか動くと触れる冷たい足とか、寝返りをうつとき抱きしめられるあの、たまらない幸福感。それが好きだから愛する男とのセックスというのはやめられない。互いが互いのために、あるいは己のために求め合うことは、本当に動物的で、裏表がない。誰かに会いたいと思えることはいいことだ。心地よい辛さがちょうどいい。

 

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 友だちとカフェで「昔はこうだったね」「懐かしいね」と思い出をひとつずつ語っていく。それらはもう戻ってこない時間だけど、確かに存在した時間で、穏やかで鮮明でキラキラしたものだった。あの頃は……と語るけど、まだ2年とか3年とかしか経っていない。まだ人生の未熟者なんだよね。社会人になって2年目なんだよね。と、友だちとぼんやり語った。

 その友だちとは幼稚園、高校、短大が同じで、いわば3歳のころからの知り合いで、もう19年の付き合いになる。かつて私が住んでいた場所(その子の実家からとても近い)に行き、小さな公園を見て、そこで飼われているウサギに挨拶をした。絶対に、当時のウサギではなく、新しく飼育されているウサギなんだろうけど、なんだかあの頃のウサギのままの気がして「久しぶり」と声をかけた。大きな目をぱちくりさせて、ウサギは私をじっと見ていた。

 

 煙草を吸う私の姿は見たくないの、と彼女は言って車の中に引っ込んでしまった。友だちの忘れ物はすっかり吸い終わってしまって、自分用の煙草を買った。休日だけ吸うことにした。ああ、これも懐かしい味だと思いながら吸った。