嫌なことぜんぶ

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 この子がいれば、私はどんな嫌なことも忘れられると思う。というぐらい、このチョコを愛している。ほんのりお酒の味と風味がして、なんだか本当に、ひとかけらだけで私の時間がキラキラする。

 嫌なことぜんぶ忘れられたらいいのにと、毎日思うけど、そうしたら楽しいこともぜんぶつまらなくなっちゃうのかしらと思い、そんな馬鹿な想像を振り切る。楽しいことがないという人がいるけれど、それって新鮮なことがないからだと思う。自分にとって「らしくない」ことを思い切ってしてみればいいのだ。ちょっと避けていた部分に触れてみたり、興味のなかったことに一歩踏み出したり、胸の中に詰め込んでいる思いを文章に起こしたり。

 だけどわかってもいる。

 そういう新しいことを前にして足がすくむんだってことも。苦しくて辛くて、ひとりで泣いてしまう夜もあるし、明日が見えなくて絶望っていう二文字が頭を巡り巡っていて、本当にどうして自分は存在しているのか、自分を見てくれている人間なんていないんじゃないのか、そんな暗い気持ちが重くののしかかっている。そして、だいたいそんな気持ちのときはろくなことを考えやしない。相手に声をかけてほしいくせに、こんな自分を見られたくないし、抱きしめてほしいのに、そんな相手なんていない。くすんだ時間が闇になってすぐそこまで迫ってきて、息がしづらくなる、あの瞬間。誰とも会いたくないのに、誰かに認めてほしいという矛盾がずっと攻め合っていて、もう消えちゃいたいという衝動に駆られる。

 そうやって増えていった傷や痣を、もう一人の私が沈んだ表情で眺めている。

 自分を傷つけずに済んだかもしれないのに。どうして脆いの。楽しいことをしていても、どこかで歪んでいる自分がいる。苦しんだり楽しんだり笑ったり泣いたりしながら、夜を重ねて、私は思い知る。なんて浮き沈みの多い、穏やかで激しい人生なんだと。

 

「このチョコ好き?」

「好きやけど。アルフォートの、ミルクっぽいやつあるやん。あれが好きやねん」

「じゃあ、このチョコはいらん?」

「ほしい」