美味しく食べられる日

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 一緒にいるときに、ふとした相手の仕草や目線の先、息を吐く瞬間、手の冷たさに敏感になってしまう。なにを考えているの?そんなこと知りたいと思っても、全部知るなんてこと絶対に不可能なのに、どうして触れたいと思ったんだろう。触れたくて、知りたくて、感じたい。

 滅多に完食できないトンカツ定食を、米一粒残さずに食べきれたのは、「幸せそうに食べるね」と褒められたからかもしれない。やっぱり誰かと一緒に美味しいものを食べるのって大事だ。

 

 鎖骨に舌を這わせるとき、ほんの少し震える目蓋や肩が愛しくて、前髪を後ろに撫でながら額にキスをした。避妊具がなくて、どうしよう抱きしめてもらえないと一瞬不安になったけど、「大丈夫。挿れないから。けど、触る」と言って、彼は手をとめなかった。

 「ゴムないよね」と訊かれたとき、持っていることを言わなかったのは、抱かせないほうが印象に残るかなという、わずかな抵抗だった。あと、どういう反応をするのか見たかったから。コンビニまでよたよた買いに行くのか、そうだったら鍵をしめて笑ってあげる。それとも生で挿入しようとしてくるマナーのない人なのか、それならそこまでの男だと軽蔑するだけだと、心のなかで思っていた。

 他人に体を許すのはいつだって怖い。慣れない。夕ご飯を食べているときは、あんなに笑い合っていたのに、今ではふたりとも裸で、相手のことを思いやりながら手や舌を動かしている。おかしくて、キスをする舌が柔らかくて、抱き合う体が熱くて、他人と抱き合って眠るのは久しぶりのことだった。

 

「かわええな」

「女の顔になってるやろ」

「うん。…自分で言うな」