眠れないときは

 

 恋人と10日間も連絡をいっさいとらないのは、もう、私たちの間では当たり前になっている。お互いにあまり興味がないというか、どこかへ行きたいというそれぞれの思いがなければ「週末ここに行こう」というラインもない。あくまで恋人なので、どうでもいいことをダラダラとラインするのは、私のなかで何か違うように感じる。ツイッターじゃあるまいし。

 それでもときどき、どうしても思い出してしまう。人肌の温かさ。恋人の匂いと、夜の空気。冷え性の私と、体温の高い彼の足が擦れ合うたびに、どちらかが「冷たい」「あついねん」と言い合う、あの心地いい時間。

 寝るだけなのだ。私はすでにお風呂に入り、持っていくのは財布と鍵とアイフォンだけ。歯磨きもすませて、近くに車を止めて、恋人のマンションに行く。

 

 私が来ても、恋人は特に「どうしたの」とか訊かない。それがいい。「どうぞ」と扉を開けて、私は一目散に布団に向かい、恋人は見ていた映画をもう一度見始める。部屋を暗くしてくれるけど、映画の内容が気になって、私はいつもなかなか寝付けない。眼鏡をはずした、ぼんやりとした視界で画面を見つめる。それに気づいた恋人は、パソコンをシャットダウンして、もそもそと私の隣に横になる。そして携帯をいじりだす。

 しばらくして、まだ私の目が開いていることに気づいた恋人は、少しだけ笑って、携帯を傍に置いた。私の頭を撫でて、そのまま手が、背中にすべる。ぽん、ぽん、ぽん、と子どもにするみたいに優しくなでる。

「迷惑じゃなかった?」

「べつに」

「きみにとって、私って、どんな存在やねん」

「うーん……ペット飼ったことある?」

「うん。犬おったで。死んだけど」

「あれ。あの感じ」

「なんやそれ」

「きみがいても僕は何も感じない。感情が動かされない。でも、きみがいても嫌じゃない。きみと一緒にいる時間は、嫌いじゃない」

 少しだけ意地悪をしたくなって、「体を、触って」と言ってみた。恋人は服の上から私のお腹を触る。優しく。「じかに、触って」と注文すると、服をたくしあげて、お腹、乳房、鎖骨をゆっくり撫でて、最後に乳首を少しだけつねった。だんだん眠気がきたので、ゆっくり目を閉じる。恋人は私の腕を撫でながら、お互い、無言になる。

 夜がくる。

 

「きみっていう人間が、私は気に入ってんねん」

「そうなの」

「やけん、一緒におるやろ」

「そうだったね」