優しさ

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 タッパーと保冷剤をいきなり渡されて、「ん?」と目を合わせると、「ばぁちゃんが、おまえにって」と祖父に言われた。低くてしわがれた、落ち着いた声。お礼を言って受け取り、家の冷蔵庫に入れた。そのときは特に何も思わなかったけど、ひとりで、ぼんやり今日を振り返っているときに、じんわり瞼が熱くなる。ありがとう。ありがとう。もっと、言っておけばよかった。

 イチジクを、昔からうまく剥けなかった。

 どうやっても手がベタベタするし、味は好きなのに、なんだか白い汁も出て、若干それが空と土の味がするのだ。裂いて、実を舌で削り取りながら、秋の虫の聲を聴いた。

 

 大好きな友達の誕生日だったから、手紙を書いて、祖父にお願いして仕事帰りにその子の家に寄ってもらった。

 その子が家にいることはなんとなくわかっていたけれど、ポストに入れて、何も言わずに帰った。

  その日の夜に電話がかかってきた。私、その手紙のことを忘れていたから、いきなり涙ぐんだ声で「ありがとうね」と言われて、「なんのこと?」と口にしそうになった。少し間が空いて、「なに、泣いてんねん」と照れと愛しさの混じった返事をした。

 愛されていないと、数年前にあれだけ泣いた彼女が、別の意味で涙を流したことに、心の底からホッとした。同時に、もう、彼女に私は必要なくて、私も彼女がいなくてもべつに生きていけるんだということを思い知る。時間が流れていることは、明らかだった。

 あんなに一緒だったのになぁと、悲しむことすらなくなった。遠く、目を細めて、涼しい季節を私たちは迎える。